電気柵とはどのようなものですか?
触れた動物に大きな電気ショックを与える柵で、ショックを覚えた動物を柵の外に出さないようにしたり(家畜等)、柵の中に入れないようにしたり(野生動物等)するものです。
法的には電気設備技術基準 第74条で以下のように規定されています。
「屋外において裸電線を固定して施設したさく(※)であって、その裸電線に充電して使用するもの」
※法的には「電気さく」と「柵」を平仮名で表記します。
そして、あまり知られていないことですが、実は同じ条文に「電気さくは、施設してはならない。」と規定されおり、電気柵が原則的には施設できないものとして扱われています。
もっとも、但し書きに以下の記載があり、これらの要件のもとで使用可能になっています。
「ただし、田畑、牧場、その他これに類する場所において野獣の侵入又は家畜の脱出を防止するために施設する場合であって、絶縁性がないことを考慮し、感電又は火災のおそれがないように施設するときは、この限りでない。」
電気柵は効果があるのですか?
適切に設置・管理された電気柵(※)が対象動物をコントロールできることは、世界中での使用実績をみれば明らかで、海外ではゾウにさえ使われているものです。
※電気柵の適切な設置方法については日本電気さく協議会のホームページをご覧ください。
「電気柵は心理柵」と言われますが、一度電撃ショックを浴びた動物は、心理的にその柵を忌避するようになります。
そのため、物理的に動物をコントロールする場合のように堅牢な柵である必要はなく、また、ジャンプする動物に対してもより低い設計でのコントロールが可能となりますので、大幅なコストダウンが可能になります。
もっとも100%コントロールできるかといえば、そこまで断言はできません。それは管理が悪いと電圧が下がってしまい、動物に与えるショックが小さくなることで心理効果が生じない場合はもちろんですが、管理された柵であっても柵に触れた動物がビックリして突進してしまうことがあるからです。
後者は稀にしか起こりませんし、びっくりした動物は何もしないで逃げ出すケースがほとんどですので大きな被害に繋がることは稀です。
一般的な物理的フェンスでも100%とはいえず、100%というには動物園の檻のような、田畑では非現実的な施設が必要になることを考えれば、電気柵は動物をコントロールするための資材としては、最もコストパフォーマンスが高いアイテムだということができます。
電気柵は人体に安全なものですか?
電気設備の技術基準の解釈192条に、電気柵の安全性に配慮した以下のような文言があります。
「電気さくは、次のいずれかに適合する電気さく用電源装置から電気の供給を受けるものであること。
➀電気用品安全法の適用を受ける電気さく用電源装置
②感電により人に危険を及ぼすおそれのないように出力電流が制限される電気さく用電源装置(以下省略)」
この規定は、「感電により危険を及ぼす」電気柵があり得ることを示唆していますが、①②いずれかに該当すれば、危険はないということを宣言する規定と読めます。
過去に「電気柵による事故」として報道された悲しい事故がありましたが、これは①も②も満たしていない危険な柵でした。
このうち①については、事実上交流電源の電牧器を対象としたものであり、PSEマークの付いたものを使っていれば問題はありません。
問題は②です。直流電源の電牧器は電気用品安全法の埒外であり、PSEの対象ではないからです。
電気用品安全法の適用外なので、直流電源であればどんな電気を流してもよいとなれば、命の危険にかかわるような電牧器の製造・販売される可能性が出てきてしまいます。
実は、IECという電気に関する国際規格には電気柵も規定されており、それは直流電源も含めた電牧器についての規格になっています。これを満たす電牧器であれば安全なものといえます。
IECの規格を準用したJIS規格についても同様のことがいえます。
JIS規格が比較的新しいため、市販の電牧器もJISに準拠はしていない場合が多くありますが、日本電気さく協議会加盟会社の電牧器については、安全性について十分な実績のあるものになっており、安心してご利用頂けます。
もっとも、国際規格では安全性の面からパルス間隔が1.0秒以上と以前の規格よりも長く見直されているのに対し、国内規格(PSE)は0.7秒以上のパルス間隔が許容されおり、古い規定がそのままアップデートされていません。
このことから、未来のアグリではすべての電牧器は国際規格に合わせた1.0秒以上のパルス間隔であるべきだと考えます。
電気柵はどのような動物に使うものですか?
家畜では主に牛、豚、羊、馬、山羊などほとんどの哺乳類に使うことが出来ます。
また、野生動物でもシカ、イノシシ、クマ、アライグマ、ハクビシン等、獣害対策が必要な哺乳類はほとんどカバーします。
ちなみに、アオダイショウに対して電気柵を使ったことがありますが、バチバチ感電しながら、柵を乗り越えていきました。「電気柵は心理柵」というだけあって、電気柵が効果を発揮するには、「あの柵はヤバい、触るのやめておこう」という判断ができる程度の知能が必要なものと思われます。
ネズミ対策については、こちらをご覧ください。⇒ビビットフェンス
電気柵の電源は何ですか?
直接100Vのコンセントからとる場合(この場合、電牧器にPSEマークが必要)、12Vや6Vのバッテリーを電源とする場合、専用の電池を電源とする場合、アルカリ乾電池を電源とする場合、そして直流電源の機種にACアダプターを介して100Vコンセントからとる場合(この場合、ACアダプターはPSEマークについてものであること)などが一般的です。
「ソーラー電源」という場合もありますが、ソーラーは電源となるバッテリーの充電のためのものであり、電源とは言えません。
ソーラーパネルを電源として電牧器が動くことはありますが、日射量によって止まったり、パルス間隔が長くなったりで使い物にならなくなりますし、まして夜は使えません。
危険な電気柵はありませんか?
重要なことですのでQ3と重なりますが、もう少し詳しくお答えします。
法的には
- Q3で述べた要件(PSEマーク付き、もしくは「感電により人に危険を及ぼすおそれのないように出力電流が制限」された電牧器を使うこと)
- 人の目につく場所に危険表示板の設置
- 100Vから電源をとるときは、漏電遮断器を介すること
- スイッチで電気柵への通電を止めることが出来ること
などが求められ、これらに適合していれば安全な柵だといえます。
この中で断トツに重要なのが最初の項目で、これさえ守っていれば、感電で生命に危険を及ぼすことはありません。端的に言えば「安全な電牧器を使うこと」です。
電牧器とは、「安全だが動物に忌避効果を生じさせるには十分な電撃ショックを与える電流を流す装置」といえ、電牧器を使わない電気柵は殺人兵器といってもよい危険なものです。
自作はもちろん、市販の電牧器であっても出所不明な輸入品などは使わず、信頼のできるメーカーのものを使った方が良いでしょう。
PSE、IEC、JIS規格に準拠した電牧器(加えてパルス間隔が1.0秒以上のもの)であれば申し分ありません。
この他に、電気柵の安全性について日本電気さく協議会のホームページにまとめられているので、是非ご覧ください。
1台の電牧器でどれくらいの大きさの畑を守ることができますか?
まず、畑の大きさではなく、電気柵の距離で考えます。面積が小さくても出入りが多く外周が長ければ、それだけ強い電牧器が必要になります。
そして、どれくらいの距離で効果的な電流を流すことができるかは、電牧器の種類によって異なります。
各メーカーは、それぞれの機種が何mくらいまでに対応できるものなのかをカタログ上で謳っている場合が多いのですが、困ったことに何をもって「対応できる」と判断するかについて統一の基準がないため、メーカー間の比較が難しくなっています。
なぜそのような状況になっているかというと、どれくらいの電圧を維持していることでOKと判定するのか(一般に動物のコントロールには3000V以上といわれますが、+アルファのバッファーをどの程度みるかは各社の判断によります)、想定するワイヤーは何か(導電性の良しあしで、使える距離も変わってきます)、どの程度の管理頻度を想定するか(毎日草刈りする人と、年に1回しかしない人では使うべき電牧器は変わってきます)など、電牧器の対応できる距離を決めるためのさまざまな要素があって、それらの判断がまちまちだからです。
A社で3㎞用と謳っている電牧器と同程度の能力の機種を、B社では1㎞用として販売しているということもあり得ます。A社は漏電が少ない状況等の好条件を想定した結果、高性能に見えるような表示になり、B社は安心して使ってもらえることを重視して、悪条件を想定した表示をしているといえます。その背景には上で述べたような様々な要素をどう考えるかはメーカーごとの判断に違いがあり、どれが正しいというわけではないということがあります。
「メーカー間の電牧器の能力比較は、カタログの有効距離(適正距離ほか呼び方はメーカーにより異なる)ではできない」ということは覚えておいてください。
そして客観的な指標で比較するのであれば、「最大出力エネルギーが何ジュールあるか?」という観点からの比較がもっとも有効な比較要素になります。
出力エネルギーは漏電量によって変化するのが一般的であり、「最大」出力エネルギーは特定の抵抗値での出力エネルギーですが、最大出力エネルギーの差がすべての条件下での能力差と考えて差し支えないでしょう。
電気柵に詳しくないのですが、設置は自分でできますか?
ポリワイヤーを使った一般的な電気柵の設置は非常に容易です。各メーカーの説明書などを見ながら、設置することができるでしょう。
これに対し、高張力線を使った特殊な電気柵は容易とは言えません。
その理由は、高張力線自体が硬く扱いにくいワイヤーであること、ワイヤーを強く緊張するため、端末支柱・コーナー支柱に太い支柱や補強が必要になること、碍子もこれに耐えうる特殊なものを使いますが、その設置方法は直接熟練者からの指導を受けないと習得が難しいことなどが挙げられます。
アースがほとんど効かない地盤に電気柵を設置しても効果はありますか?
動物が電気柵のワイヤーに触れると、電牧器(+)→ワイヤー→動物→地面→アース→電牧器(-)という回路を完成させることで動物に大きな電撃ショックを与えることが出来ます。
この時に、例えばワイヤーが金属線ではなく、雨水を含んだ木綿糸だったらどうでしょう? 雨水に濡れた木綿糸は電気を通さないことはありませんが、金属線に比べれば抵抗が大きく、十分なショックを与えられないことは容易に想像できます。
これと同様に、回路の一部である地面が、電気を通しにくい性質であった場合には、十分なショックを与えることができません。
アース自体の数や深さが足りずに地面と一体化していない状態が典型的なアース不良ですが、アース自体は湿り気のある好適地に適正な数量、適正な深さで打ち込んだとしても、動物がワイヤーに触れた場所の地面の状況が悪ければ、同じような結果を招きます。
例えば、動物の脚元が厚い積雪に覆われていたり、コンクリートが打ってあったり、一般的な防草シートが敷いてあったりした場合には、湿り気のある地面に比べて電圧が下がってしまいます。土質によっても乾燥時には導電性が大きく下がり、電圧が出にくくなることがあります。
解決法としては、防草シートの場合は電気柵用の通電シート(未来のアグリ製品では「ビビットシートという商品があります」を使えば解決します。
そのほかの場合では、一番確実なのは金網を敷いて、アースと金網を接続することが考えられます。
また、通常は電気柵線には電牧器のプラス端子から配線しますが、複数段のワイヤーを交互にプラス線とマイナス線として配線する方法もあります。
もっとも、この場合は動物がプラス線とマイナス線を同時に触れたときに電撃ショックを受けることになりますので、2本以上同時に触れるようなワイヤーの配置にすることが必要ですし、電気を通しにくい部位で触れる可能性も高いため、金網でアースを補強した場合に比べて電気柵としての効果は下がります。